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東京地方裁判所 昭和28年(ワ)6344号 判決 1957年2月28日

原告 株式会社小松ストアー

被告 七条克貫

主文

被告七条が、別紙目録の建物につき、原告に対する賃借権をもつていないことを、原告と被告七条との間において確定する。

被告会社は原告に対し、別紙目録の建物を明渡し、かつ昭和二十八年三月一日から右明渡ずみに至るまで一箇月金三万円の割合による金員を支払うべし。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決中金銭支払の部分については、原告が、無担保で、仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一ないし第三項同旨の、仮執行の宣言つきの判決を求め、請求の原因として、かつ被告らの抗弁に答えて次のとおり述べた。

原告は昭和二十五年八月十七日所有者訴外平塚長吉郎から、別紙目録の建物を買受けて所有権を取得し、昭和二十六年十月二十七日これを被告七条に対し、左記約定で賃貸した。

一、賃料は、昭和二十六年十一月から六カ月間は月額二万円、その後は右期間満了のときに協議のうえ決定することとする。

二、賃借人は、賃借建物内に他人を同居させたり、建物を間貸、転貸したり、建物賃借権を譲渡したりしないこと。

三、賃借人が、賃貸人の承諾を得ずに賃借建物に居住しないこと一カ月以上に及んだとき又は本契約条項に違反したときは、賃貸人は、何ら予告することなく、賃貸借契約を解除することができる。

しかるに、被告七条は、昭和二十八年二月以前から本件建物に居住せざるのみならず、同年二月頃から被告会社に本件建物を占有使用せしめるに至つた。

よつて、原告は、昭和二十八年五月二十日発同月二十三日着の書面で、被告七条に対し、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。これによつて本件賃貸借契約は解除された。しかるに、被告七条は賃貸借契約終了の事実を認めず、依然本件建物につき賃借権をもつていると主張している。

被告会社は、何らの権原なく、おそくも昭和二十八年二月中から本件建物を占有し、原告の建物所有権を侵害し、原告に対し相当賃料額の割合による損害を与えている。原告と被告七条との間の本件賃貸借契約における約定賃料は昭和二十七年五月から一カ月三万円と改定されたのであつて、本件建物の相当賃料も右の額である。

よつて、原告は、被告七条に対しては本件建物についての賃借権の不存在確定を訴求し、被告会社に対しては本件建物の明渡と、昭和二十八年三月一日から右明渡ずみに至るまで一カ月三万円の割合による損害金の支払とを求める。

被告らの抗弁事実は否認する。

被告らの主張に対する原告の言いぶんは次のとおりである。

原告が本件建物買受けにより東京茶業株式会社に対する賃貸人の地位を承継したことは、被告らの主張するとおりである。しかし右賃貸人の地位を承継後間もなく右会社の経営内容が悪化し、賃料の延滞が生じ(のちに破産の申立を受けた)たので、原告は、代表者に信をおけない、かような小会社に賃貸することを嫌い、被告七条に対し、「責任ある個人に対してのみ賃貸する」と強く申入れ同被告との間に本件賃貸借契約を締結するに至つたのである。

被告七条から被告会社への転貸に対し原告が承諾を与えたことも、もちろんない。

以上のとおり述べた。

被告七条訴訟代理人は、原告の請求を棄却する旨の判決を求め、次のとおり答弁した。

原告が昭和二十五年八月十七日所有者平塚長吉郎から本件建物を買受けて所有権を取得したこと、被告七条が昭和二十六年十月二十七日本件建物を原告から賃借したこと、被告七条が昭和二十八年二月以前から本件建物に居住せず、被告会社が同月以前から本件建物を占有使用していること、原告から被告七条に対し原告主張のとおり解除の意思表示があつたことは認める。

本件建物を被告七条が賃借し、被告会社が占有使用するに至つた事情は、次のとおりである。

被告七条は久しい前本件建物を平塚長吉郎から賃借して、「銀座宇治園」なる商号で茶の卸小売業を営んでいたが、のち東京茶業株式会社を設立して自ら代表取締役となるに及び、家主平塚に話して賃借人を同会社に変更してもらつた。間もなく訴外高月茂が被告七条に代つて右会社の代表取締役になつたが、昭和二十五年八月十七日原告が本件建物を買受けたときは、依然東京茶業株式会社がこれを賃借中であつた。

その後一年余にして東京茶業株式会社は経営不振に陥つたが、被告七条はこれを座視するに忍びず、昭和二十六年十月に至り右高月茂、大東正輔らとともに老舗更正のため株式会社銀座宇治園(被告)の設立をもくろみ、その計画について原告に説明し、新会社成立のうえはこれに本件建物を賃貸されたいと願つた。原告は、基礎の弱い小会社では代表者の交てつなどによつて責任の所在が不明確になりがちであるといつて、右申出を承諾しなかつた。その結果、同年十月二十七日、被告七条個人と原告との間に本件建物の賃貸借契約ができたのである。しかし、かようないきさつでできた賃貸借契約であるから、賃借人は被告七条であつても、本件建物を実際使うのは新設の被告会社であることは、原告が最初から知つており、同年十一月中被告会社が設立されて、被告会社が本件建物の使用をはじめたのちも、原告はこれを見すごしていた。法律的にいえば、被告七条が本件建物を被告会社に転貸したことにつき原告は暗黙の間に承諾を与えたのである。

原告と被告七条との間の賃貸借契約についてつくつた証書の中に「賃借人が賃貸人の承諾を得ずに賃借建物に居住しないこと一カ月以上に及んだときは、賃貸人は賃貸借契約を解除することができる」旨の条項があることは事実であるが、これは当事者双方これに拘束される意思なくして入れた例文条項である。被告七条は先祖代々京都府相楽郡上狛町に居住し、久しい前本件建物を借りたとき以来一日たりともこれに居住せず、本件建物には使用人を置いて建物を監視させていたのであり、原告はそのことをよく知つていた。このことからも前記契約条項が例文であることはわかる。

以上のとおり、(イ)被告七条が本件建物を被告会社に転貸したことを原告は承諾しており、(ロ)「賃借人が賃貸人の承諾を得ずに賃借建物に居住しないこと一カ月以上に及んだときは、賃貸人は賃貸借契約を解除することができる」旨を約定したことはないから、本件賃貸借契約が解除されたという原告の主張は失当である。

以上のとおり述べた。

被告会社訴訟代理人は、原告の請求を棄却する旨の判決を求め、次のとおり答弁した。

原告が昭和二十五年八月十七日所有者平塚長吉郎から本件建物を買受けて所有権を取得したこと、被告会社が原告主張の時期以前から本件建物を占有使用していること、原告から被告七条に対し原告主張のおり解除の意思表示があつたこと、本件建物の相当賃料が原告主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は争う。

被告会社は賃借権にもとづいて本件建物を占有しているのである。被告会社が本件建物の賃借権を取得するに至つた事情を述べる。

被告七条は終戦後間もなく本件建物を平塚長吉郎から賃借して、「銀座宇治園」なる商号で茶の販売業を営んでいた。

昭和二十一年四月三十日、高月茂(被告会社の代表取締役となる)は、賃貸人平塚の承諾を得て被告七条から右賃借権を譲受け、引続きやはり「銀座宇治園」なる商号で茶の販売業を営んでいた。

昭和二十二年六月二十一日に至り、東京茶業株式会社(代表取締役は右高月)は、賃貸人平塚の承諾を得て高月から右賃借権を譲受け、その後やはり「銀座宇治園」なる名称で茶の卸売業を営んでいた。

原告は、この、東京茶業株式会社が賃借中の建物を、平塚から譲受けて、賃貸人の地位を承継したのである。

昭和二十六年下半期に至り東京茶業株式会社が経営不振に陥つたので、同年十月二十三日、右会社、被告七条、大東正輔は次の契約を締結した。

一、「銀座宇治園」の経営権は、本件店舗内にある高月個人の家具什器とともに被告七条及び大東に金六百万円の対価で譲り渡す。

二、被告七条、大東が高月とともに別に「株式会社銀座宇治園」をつくり、同会社をして「銀座宇治園」の経営に当らせる。

三、昭和二十六年十月二十三日から新会社成立に至るまでの間被告七条を発起人代表として、「銀座宇治園」に関する権利義務の処理に当らせる。

四、成立した「株式会社銀座宇治園」の主導権、即ち代表取締役の選任その他の経営権は被告七条、大東に一任するが、後日高月が金六百万円を被告七条、大東に支払うときは、右両名は右経営権を高月に譲り渡す。

昭和二十六年十月二十七日、新会社成立が間近かに迫つたので、被告七条は原告を訪ね、新会社設立に関する事情を説明して、東京茶業株式会社から新会社への賃借権の譲渡を承諾されたいと願つたところ、原告はこれを承諾した。そして同日、原告と新会社設立発起人代表(設立中の会社の執行機関)たる被告七条との間に賃貸借契約書が作られた。間もなく被告会社ができたので(代表取締役には被告七条の推せんする山田明が就任)、本件建物の賃借人は被告会社になつた。

その後昭和二十七年暮頃から前記昭和二十六年十月二十三日の契約条項の履行に関し高月と被告七条らとの間に紛争が起つたが、昭和二十八年三月紛争が解決し、高月が被告会社の代表取締役になつた。原告は、この代表取締役交替の事実を曲解して、被告七条が原告に無断で本件建物を被告会社に占有使用させたように誤つた主張をしているのである。

被告七条が、前記のとおり、新会社設立発起人代表(設立中の会社の執行機関)として、本件建物賃借権譲受につき原告の承諾を得た際、本件建物に被告七条を居住させるなどと約したことはない。したがつて、被告七条が居住しないこと一年以上に及んだときは賃貸人において賃貸借契約を解除することができるなどと約したこともない。本件賃貸借の目的は被告会社の店舗として使用するにあつた。

原告の請求は、ことごとく誤つた前提に立つているのであつて、失当である。

以上のとおり述べた。

証拠関係につき、原告訴訟代理人は、甲第一ないし第五号証を提出し、証人金子長之助、風間克貫、大久保定二の各証言、被告七条七之助本人尋問の結果を援用し、「乙第一号証の一、二、第三号証の一ないし三、第四号証が真正にできたかどうかは知らない。その余の乙号各証が真正にできたことは認める。」と述べ、被告会社訴訟代理人は、乙第一号証の一、二、第二号証、第三号証の一ないし三、第四ないし第七号証、第八号証の一ないし四、第九号証の一、二を提出し、証人金子長之助、加納瀬平の各証言、被告七条七之助、被告会社代表者(当時の)高月茂各本人尋問の結果を援用し、「甲第一及び第四号証が、真正にできたことは認めるが、その余の甲号各証が真正にできたかどうかは知らない。」と述べ、被告七条は「甲号各証が真正にできたことは認める。」と述べた。

理由

原告が昭和二十五年八月十七日所有者平塚長吉郎から本件建物を買受けて所有権を取得し、東京茶業株式会社に対する右建物賃貸人の地位を承継したことは、当事者間に争がない。

甲第二、三号証、同第五号証(被告七条との間においてはいずれも真正にできたこと争いなく、被各会社との間においては、甲第二、三号証は被告七条本人の供述によつて、甲第五号証は証人大久保定二の証言によつてそれぞれ真正にできたと認められる)、乙第九号証の一、二(真正にできたこと争いなし)と証人大久保定二の証言、被告七条七之助本人、被告会社代表者(当時の)高月茂本人の各供述とを合せ考えると、次のとおり認めることができる。

本件建物の賃借人東京茶業株式会社は昭和二十六年下半にはいつて極度の経営不振に陥つたので、被告七条、大東正輔は東京茶業株式会社の代表取締役高月茂と相談して、別に被告七条を中心とした新会社をつくり、被告七条を実権者としてこれを運営し、本件建物で引続き茶の販売をやつて行こうともくろんだ。そして被告七条は、同年九月頃から原告に対し、やがてできる新会社に本件建物を賃貸されたい、と願つた。しかし、原告は、東京茶業株式会社が手形の不渡を出したことも耳にしていたので、基礎の弱い小会社では、代表者、実権者の交替等により責任の所在が不明になつて困ると考えて、右申出をことわつたうえ、被告七条個人ならば貸してもよい、と答えた。かくて昭和二十六年十月二十七日、原告と被告七条個人との間に、「賃借人は賃借建物内に他人を同居させたり、右建物を間貸、転貸したり、建物賃借権を譲渡したりしないこと」「賃借人が本契約条項に違反したときは、賃貸人は、何ら予告することなく賃貸借契約を解除することができる」等の約定を内容とする本件建物の賃貸借契約ができた。

以上のとおり認めることができる。

証人金子長之助の証言中右認定に反する部分は信用することができない。また証人金子長之助、加納瀬平の各証言によると、昭和二十六年十月二十七日以後の賃料は被告会社の金で支払つていたことが認められるが、この事実も必ずしも右の認定の妨げにならない。ほかに右認定を動かし、右賃貸借契約は被告会社の設立発起人代表者としての被告七条と原告との間にできたという事実を認めさせるような証拠はない。

次に、乙第三号証の一ないし三、同第四号証(いずれも当時の被告会社代表者高月茂の供述によつて真正にできたと認められる)と証人金子長之助の証言、被告会社代表者(当時の)高月茂本人、被告七条本人の各供述とを合せ考えると、次のとおり認めることができる。

昭和二十六年九月頃から、高月茂、被告七条らは、新会社をつくることによつて、従来東京茶業株式会社が高月を実権者として本件建物でやつていた茶販売の事業を発展させようともくろんだ。そして同年十月二十三日、右の者に大東正輔、東京茶業株式会社を加えた者たちが、被告七条に新会社の実権を与える構想のもとに、(イ)東京茶業株式会社は本件建物における「銀座宇治園」の営業権を什器一切とともに六百万円の対価で被告七条、大東に譲り渡す、(ロ)被告七条、大東が右営業権をもとにして会社をつくることを高月は承認する、(ハ)被告七条、大東または新設会社は、高月の申出があるときは前記営業権を前記代金六百万円で高月に譲り戻す、という契約をした。かくして昭和二十六年十一月中被告会社がつくられ、被告七条が中心になつて(ただし代表取締役には身代りを出して)運営に当つたが、昭和二十八年にはいつて高月と被告七条らとの間に紛争が起つたので、昭和二十八年二月二十三日、被告七条の相談相手平林弁護士、高月の相談相手布山、加藤両弁護士ら立会のうえ話合つた結果、高月、被告七条、大東は、高月に被告会社の実権を戻す構想のもとに、(イ)被告七条、大東は前記営業権を六百万円で高月に譲り渡す、(ロ)本件建物の賃借権は被告会社にあることを認めるが、これによつて賃貸人との間におこる紛争については被告七条、大東は責任を負わない、等の諸事項を約定した。このときから、被告七条は、本件建物における営業からも、本件建物自体からも完全に手をひいた。

このように認めることができる。

以上認定の事実によると、被告七条は昭和二十八年二月二十三日本件建物の賃借権を被告会社に譲り渡したと認めるのが相当である。

ところで甲第五号証と証人大久保定二、風間克貫の各証言、被告七条本人、被告会社代表者(当時の)高月本人の各供述とを合せ考えると、次のとおり認めることができる。

被告会社成立後しばらくして、被告七条らが被告会社の商業登記簿謄本を原告に届けるなどのことがあつて、被告会社ができたことを原告は知つた。しかし、原告は、本件建物を被告会社が使うことを積極的に承認するようなことはせず、被告会社の実体を見守つていた。その間同年暮から昭和二十八年初にかけて、被告七条から頼まれた平林弁護士が、被告七条から被告会社への本件建物賃借権譲渡を承諾してもらいたいと原告に願つたが、原告は、権利関係のふんこうを嫌つて、風間克貫弁護士を介してこれをことわつた。その後昭和二十八年三月になつて被告会社の実権が被告七条から高月(原告が必ずしも信をおかない)に移り、高月がその代表取締役になり、本件建物の賃借権も被告七条から被告会社に移るという、かねて心配した事態が起つたので、原告は、被告七条との間に本件賃貸借契約を解除することに決意した。

以上のとおり認めることができる。

証人金子長之助の証言中右認定に反する部分は採用することができない。ほかに被告七条から被告会社への本件建物の転貸又は本件賃借権の譲渡を原告が承諾したという事実を認めさせるような証拠はない。

賃貸建物を賃借人以外の者が使つていることを賃貸人が知つて日を送つたところで、必ずしも賃貸人が転貸の事実を承諾したことにはならない。賃貸人としては、右の不当な事態を賃借人が是正するかもしれないと期待していることがあり、また権利実行のわずらわしさをきらつて、転貸を承諾しないがしばらくほおつておこうという態度に出ることもあるからである。転貸の事実を賃貸人が暗黙の間に承諾したとするには、右建物を賃借人以外の者が使つている事態をさしつかえなしとし、あるいはやむを得ずとしてほおつておいたことが、諸般の状況からうかがわれなければならない。本件において、原告は、権利関係のふんこうをおそれて賃借人以外の者が本件建物を使うことをきらい、被告会社の実体を見守つて日を送り、その間賃借権譲渡につき承諾を求められてことわり、原告の必ずしも信頼しない者が被告会社の実権者になり、被告会社が建物賃借権を譲り受けたことを知るに及んで賃貸借契約を解除する決意をしたというのであるから、たとい原告が、本件建物を被告会社が使つていることを知つて日を送つたことがあつたところで、原告が転貸の事実を暗然の間に承諾したとみることは無理である。

本件建物を被告七条が被告会社に使用させたことを理由として、原告が、昭和二十八年五月二十日発同月二十三日着の書面で、被告七条に対し、本件賃貸借契約解除の意思表示をしたことは、原告と被告会社との間においては争いがなく、原告と被告七条との間においては、同被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

なお、原告は、「賃借人が、賃貸人の承諾を得ずに賃借建物に居住しないこと一カ月以上に及んだときは、賃貸人は、何ら予告することなく、賃貸借契約を解除することができる。」という契約条項に被告七条が違反したことをも解除の理由にしている。前記甲第二号証によると、本件賃貸借契約につき作つた証書の中に原告主張の条項が書き込まれたことが認められるが、当裁判所は、証人大久保定二の証言と弁論の全趣旨とによつて、右は当事者が必ずしもこれに拘束される意思なくして書き込んだ例文的文言であると認める。したがつて、この条項違反を理由とする契約解除は理由がないが、原告は本件建物を被告七条が被告会社に使わせたことをも解除の理由としていることは、前認定のとおりであるから、前記例文条項のことは本件ではあまり重要でない。

原告と被告七条との間の本件賃貸借契約は、前記解除の意思表示により解除されたといわなければならない。

原告の被告七条に対する請求はもつともである。

被告会社が昭和二十八年三月一日から本件建物を占有していることは、被告会社が認めている。この占有について被告会社が原告に対抗することができる権原をもつていないことはさきに説明したところによつておのずから明らかであるから、被告会社は右の日から少くとも過失により原告の右建物所有権を侵害し、原告に対し相当賃料額の割合による損害を与えているものといわなければならない。契約解除当時における本件建物の相当賃料が一カ月三万円であつたことは、右当事者間に争いがない。

被告会社は所有権者である原告に対し、本件建物を明渡し、かつ昭和二十八年三月一日から右建物明渡ずみに至るまで一カ月金三万円の割合による損害金を支払う義務を負うものといわなければならない。

よつて被告両名に対する原告の請求をすべて認容し、訴訟費用は民事訴訟法八九条、九三条一項本文によつて被告らの負担とし、判決中金銭の支払を命ずる部分については同法一九六条によつて仮執行の宣言をつける。ただし、建物の明渡を命ずる部分については相当ならずと認めて仮執行の宣言をつけないことにする。よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 新村義広)

目録

東京都中央区銀座六丁目二番地

家屋番号同町四番の一の二

一、木造トタン葺二階建店舗 一棟

建坪 二十二坪五合

二階 十坪五合

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